キレイなお母さんは好きですか?

偶然にも2日続けて『尋常でなく綺麗なお母さん』の登場する恐い小説を読みました。

魔女の死んだ家 (ミステリーランド)

魔女の死んだ家 (ミステリーランド)

香華 (新潮文庫)

香華 (新潮文庫)

どちらも町角文庫*1で借りたもの。
魔女の死んだ家は講談社ミステリーランドの一冊。波津彬子のイラストが美しいです。娘の為に借りてきたのだけど、その前にちょっと子供向けなので30分くらいで読めてしまいました。非常に少女漫画的で耽美。なんかもう幻惑されるだろうな子供は。って感じ。

ある春のこと、おかあさまはピストルで殺された。その日のことをあたしはよく夢に見る。急にあたしは自分の手の中に硬い冷たいピストルの感触を覚えるのだった…。

ね?
多分娘は好きだろうと思う。これ中学生くらいが対象年齢なのかな?アマゾンの書評でも同シリーズの中では難易度が高いとありましたが。アタシが娘の年にはもっとおどろおどろしかったりエロティックであったりなモノも読んでましたから我が家的には問題ないけど。ミスディレクションが見え見えなのは子供向けだからしょうがないのかな?

香華の方は今まで読んでなかったのが不思議なようなアタシ好きな花柳界が舞台の話なんだけど、主人公よりも母親の方が魅力的だよね。自堕落で甘ったれで自制心がなくてふしだらで、それで居て神々しいほど美しいってのが。映画や芝居にもなってたはずだけど、女優だったらこっちの方がやりたいんじゃないかしら?

美しい母を持った凡庸な容貌の娘の気持ちは良くわかります。ええ、アタシがそうですから。娘のアタシが言うのもなんですがアタシの母親は若い頃はハンパなく美人でして、子供の頃は学校の授業参観の時など誇らしいような恥ずかしいような複雑な気持ちになったものでした。母は洋裁も上手く当時の装苑に載っていた最新デザインの服を自分で仕立てて来ていましたが、それも他のお母さん達より少し派手で、薄いオーガンジーの透けるようなのや大きなケープが付いたデザインのものなど、近所では誰も着ていないような物ばかりでした。でもけして下品ではなくそれこそ原節子に似ていると良く言われたという目鼻立ちのハッキリとした顔立ちで背筋が伸びてスタイルの良い母にはとても似合っていました。
アタシは母が学校に来る日は嬉しくもあり憂鬱でもありました。だって友達がみんなして言うのだもの「ゆーこちゃんのお母さんて本当にキレイだよね」くらいならまだよくって意地悪な男の子などは「本当にお前の母さんなの?すげーなあ。全然似てないじゃん?」「血が繋がってないんじゃない?」等など・・・。
母が未亡人になったのは55歳でした。アタシは「お母さんはその歳にしてはイケテル方なんだし、恋愛でも再婚でも全然アリだと思うわよ」てなことを言ったのだけど散々父に苦労をさせられてきた母は今更そんなめんどくさいことはごめんこうむりたいとの返事でした。
数年前実家に帰った時夜電話が鳴ってアタシが出るとロレツの回らないどこかのオジサンがかけてきててたまたま母は隣に行っていて出られなかったのですが、後から母に聞くと田舎の同級生だということでした。少女の頃の母はキレイでクラスで一番成績も良くいわば女王様的存在だったようで、その頃のファンの一人らしいのだけど、母が未亡人になってからなにかと電話がかかって来るらしいのです。それもしらふでは勇気が出ないとみえて大抵は飲んでかけてくることがほとんどだそうで。「私が未亡人になったものだから舐められてるのよね」と言いながらも母もチヤホヤされる事自体は満更でもなさそうで、母の女の部分を見るのは娘としてはなかなかしんどいものですね。
母はその美しさゆえに村で一番の地主さんの家の跡取りに交際を申し込まれて結婚するつもりだったのが母の出生が理由で反対されて叶わず、いわば疵物になって都会に出て来た挙句問題ありまくりの父と結婚してしまった小説かドラマに出来そうな生涯を送ってきた人なのですが、アタシの生まれる前に亡くなった祖母は母曰く「私なんか比べ物にならないくらい美人だった」そうですし、戦前の大田舎で2度も結婚して最初の夫は早くに亡くなり2度目の夫は精神状態の尋常ではない人だったらしく、別れたのだけど(昭和初期当時の片田舎で女の方から望んで離婚というのはかなりのセンセーションだったはず)その後も向うは未練たらたらで今で言うストーカーのような具合だったそうです。どうやら最後は自殺してしまったらしいのですが。その後で仕事で東京から来ていた妻子ある人と(それなりの地位の人だったらしい)の間に私生児の母を生んだり、最後はやはり自殺?(更年期の不調で不眠になり強い睡眠薬を飲みすぎて精神を害した挙句家の裏の井戸で・・・)してしまったんですけど、アタシが小説家だったら絶対祖母と母のことは書くんだけどねえ。(もうここで書いてるけどさ)祖母も母も美人だけどけして幸福とは言えなくて人一倍苦労や重荷を背負っていたんだよねえ。美しいことは罪深いことである的なわかりやすいパターンの一例なのかもしれません。って身内の事をそんな風に突き放して書けるアタシは何者なんだ?って感じですが。

*1:路上に設けられたガラス戸付きの書架に並んだ本を手続きなしで自由に借りてよいミニ図書館。本は寄贈によるものでやはり自由に置いていけばよい。